Farmers Story
菅原智希さん・和作直之さん

明治24年、今から130年以上前。石狩平野の原野に小さな駅逓所が建ち、各地から集まった人々によって、浦臼の開墾が始まりました。
先人たちが願ってやまなかったのは、「この土地で、なんとしても米をつくる」ことでした。
しかし、願いを込めて育てても、思うように稲が実らない。昭和初期には、穂がつかず、ほうきのように痩せた稲を手に涙を流す農家の姿もあったといいます。ようやく育った作物も、川がひとたび氾濫すれば、田畑とともに失われてしまう。それでも開拓を志した人たちは、この土地で米をつくることを諦めませんでした。
歯を食いしばって幾度もの困難を乗り越えた、その歩みの先に、現在の浦臼の米づくりがあります。
今、先人たちが拓いた土地で米を育てている菅原智希さんと和作直之さんに、浦臼の米のおいしさと、それを産地から食べる人へ直接届ける、産直への思いを伺いました。
浦臼で育った、おいしいお米の記憶
和作さんの祖父は、農業を営むために浦臼へ入りました。一家はその前の曽祖父の代に、石川県から開拓民として北海道へ渡ったといいます。
菅原さんの家族は福島県から北海道へ渡り、旭川を経て浦臼に入植したといいます。
二人にとって、浦臼のお米は、幼い頃から食べてきた身近な記憶です。
「子どもの頃から、浦臼のお米はおいしいと思っていました。秋になって新米を炊くと、ふわっといい香りが立つ。その香りを感じながら米粒を口に含んで、『おいしい!』と思ったことを覚えています」(菅原さん)

当時は「きらら397」などが多く育てられていました。和作さんも、「ほしのゆめ」や「きらら397」を食べながら育ったといいます。
「ここ10年ほどで、北海道米がおいしいことが全国的に知られるようになりました。それはうれしいですね。でも、自分たちにとっては、昔からおいしいお米だったんです」(和作さん)

稲に無理をさせない。それが、おいしさになる
現在、二人が浦臼の田んぼで育てているのは、北海道を代表する品種の「ななつぼし」や「ふっくりんこ」です。子どもの頃から慣れ親しんできた浦臼米のおいしさを、今の品種へとつないでいます。
浦臼町は、北海道内でも有数の米どころとして知られています。一方で、決して収量の多い土地ではないと菅原さんはいいます。
「ほかの地域で10俵穫れるところでも、ここでは8俵穫れたら十分だね、と生産者同士で話しています。たくさん穫ろうとして、稲に無理をさせない。それがおいしいお米につながっていると思います」(菅原さん)
浦臼には、砂利を多く含む田んぼがあります。水や肥料がとどまりすぎないため収量は伸びにくいものの、米の食味を高めるうえでは、この土壌が利点になります。
肥料を多く与えれば、収量を増やすことはできます。しかし、収穫の時期まで窒素が効きすぎると、米の粘りや甘みが弱くなることがあります。
「肥料を多くすれば収量は上がります。でも、それでは自分たちが届けたい、おいしいお米にはならない。だから、収量よりもおいしさを優先したいんです」(菅原さん)
和作さんは、砂利質の土では、収穫の時期に向けて肥料の成分が適度に抜けていくと教えてくれました。肥料に頼りすぎず、稲が自らの力で丈夫に育ち、光合成によってつくった養分を一粒一粒の米へ届けられるように、必要な分だけ手を添える。
たくさん穫るより、おいしく育てる。それが二人の米づくりの信念です。
春の仕事が、一年のおいしさを左右する
農家の間には、「苗半作」という言葉があります。苗の出来によって、その年の米づくりの半分が決まる。それほど、春の苗づくりは重要な仕事です。
「春先は、とても緊張感があります。苗を育てるハウスによっても、水の入り方は違います。一つひとつ様子を見ながら調整しなければなりません」(菅原さん)

菅原さんが田植えで大切にしているのは、苗を浅めに植えることです。
深く植えれば苗は抜けにくく、管理しやすくなります。しかし、その後の生育を考えると、浅く植えたほうが稲は健全に育ち、病気にも強くなります。
平坦にみえる田んぼにも、高低差があります。その状態を見ながら田植え機を細かく調整し、適切な深さに植えていく。手間のかかる作業ですが、初期の生育だけでなく、収量や食味にもはっきりと表れるといいます。
一方、和作さんが大切にしているのは、すべての作業をできる限り均一にすることです。
「田起こしから種まき、その後も一株一株に差が出ないようにしています。均一に育てることで、収穫したときの仕上がりにも差がなくなります。どの粒も同じように、おいしいお米にしたいんです」(和作さん)
田んぼの小さな違いを見極め、こつこつ手をかけながら、健やかで均一な生育を目指す。一つひとつの仕事が、最高においしい実りへとつながっています。
大粒だから、炊けば粒立ち、噛めば甘い
浦臼で育つ米の特徴のひとつが、「粒の大きさ」です。
「この地域では、粒を大きく育てることを大切にしています。粒が大きいと割れにくく、炊き上がったときにも、一粒一粒がしっかりと立つんです」(菅原さん)
洗米時、指に触る粒の感触。炊飯してしゃもじを差し入れると、ふっくらとつやのある大きな粒。口に入れて噛むほどに広がる甘み。農家の努力は、炊き上げた米に結実します。
和作さんは、米を食べた人から「甘い」と言ってもらえることが、何よりうれしいと話します。
「手間をかけた分、お米のおいしさに気づいてもらえるとうれしいですね。自分も出かけた先でほかのお米を食べると、やっぱり浦臼のお米はおいしいな、と改めて思います」(和作さん)

混ざらないから、この土地の味がする
産地から直接届く産直米には、大きな流通を通る米とは異なるおいしさがあります。
菅原さんは、その魅力を「混ざっていないゆえのおいしさ」と表現します。
流通の過程では、品質や味を一定にするため、複数の生産者や産地の米を合わせることがあります。
それに対して、産地から直接届ける米は、その田んぼ、その生産者が育てた米だけで袋詰めされます。
混ざっていないからこそ、その土地の土壌や栽培方法、生産者ごとの個性を、そのまま味わうことができるのです。
また、大きな流通網に乗る米は、選別や運搬などの過程で何度も機械を通ります。産地から直接届けることで、機械を通る回数を抑え、美しい米粒を、できる限り傷つけずに届けることができるのです。
つくり手の顔が見える産地から、食べる人のもとへ。田んぼと食卓の距離が近いことも、産直米ならではのおいしさの理由です。
田んぼから食卓まで、おいしさをまっすぐに
おいしいお米を求めていても、なかなか満足できるものに出会えないことがあります。
たとえば旅先の直売所で買った米がおいしくて、同じ品種をみつけて都市部で購入してみても、なぜかあの時の味と違う。同じ品種名であってもこのようなケースが起こります。
和作さんの知人も、以前、ある品種のお米を30キロまとめて購入したものの、口に合わず、大量のお米を食べ終えるまでつらい思いをしたことがあるそうです。その後、和作さんのお米を食べ、「このお米がほしい」と、北海道から遠く離れた埼玉県から注文してくれるようになりました。
「おいしいお米を探していても、まだ見つけられていない人がいる。その人たちに、産地から自分たちの手でお米を届けられるのは、うれしいことですね」(和作さん)
菅原さんの願いも、とてもまっすぐです。
「おいしいお米を食べて、笑顔になってほしい。それだけなんです。結局、自分は『おいしい』と言ってもらえるように、毎日努力しているんだと思います」(菅原さん)
「おいしい」が全国の食卓で当たり前になるように。二人は今日も田んぼと向き合い、自分たちが育てた米を、産地から食べる人のもとへ届けます。

浦臼の米づくりを、次の世代へ
明治の開墾から長い年月をかけて受け継がれてきた浦臼の米づくり。しかし、その先にある未来は、決して約束されたものではありません。
人口減少が急速に進むなか、農業の担い手も少なくなっています。生産者が減れば、守られてきた田んぼだけでなく、この土地で培われてきた知恵や技術も、いつか途絶えてしまうかもしれません。
これは、この町だけの問題ではありません。各地で生産者が減り続ければ、日本の農業そのものが衰え、これまで当たり前にあった食卓の風景が失われていく可能性があります。
だからこそ、二人が見つめているのは、自分たちの農園だけではなく、浦臼という地域のこれからです。
「自分がつくったものだけが売れればいい、ということではなくて、浦臼全体が盛り上がればいいと思っています」(菅原さん)
「黙って何もしないでいると、地域がどんどん小さくなってしまうかもしれない。何もしないより、自分たちの手で、今できることをしたほうがいいと思うんです」(和作さん)
先人たちが苦労を重ね、この土地に根づかせた米づくり。その米を産地から全国へ届け、おいしさを知ってもらうことは、地域の農業を次の世代へつなぐための一歩でもあります。
この土地で、これからもおいしい米をつくり続けるために。そして、日本の食卓へ届け続けるために。二人は今、自分たちにできることを一つずつ重ねています。
精米したてを、いちばんおいしく
お米は、精米してから1か月以内がおいしいと二人はいいます。
一度にたくさん買って長期間保存するよりも、1か月ほどで食べきれる量をこまめに手元に置いておく。それが、お米をよりおいしく味わうためのおすすめの方法です。
「こだわりの炊飯器があれば、ぜひ使ってみてください。食べきれる分だけを手元に置いて、精米したてのおいしさを味わってもらいたいです」(菅原さん)
おいしい状態で食卓へ届くよう、僕らがこまめに精米し浦臼から直接お届けします、と二人は話します。
浦臼の一枚の田んぼから、皆さんの食卓へ。
米の一粒一粒には、この土地の味と
つくり手の思いが込められています。

うらうすファーマーズでは、浦臼で育てた「ななつぼし」「ふっくりんこ」を、生産者から直接お届けしています。

